作風がより顕著に
まず前回の記事から1年以上も前ということに非常に驚いている。
karonsenpai0912.hatenablog.com
今回は「思い出のマーニー」までを紹介しようと思う。その後のスタジオポノックや一応スタジオジブリ最後の作品となっている「レッドタートルズ ある島の物語」の作品も紹介しようか迷ったが一応そこまで紹介しようと思う。
今まで通り評価は(C,B,A,S)。場合によって(+,-)をつける場合があるがそれはご了承を願う。今回扱った楽曲集は下記の「スタジオジブリの歌-増補版-」の「ホーホケキョ となりの山田くん」から紹介する。
01.ケ・セラ・セラ/山田家の人々ほか
映画「ホーホケキョとなりの山田くん」の挿入歌として山田家の人々(声優陣)が歌い上げた曲。挿入歌はいっぱいある今作だがこのアルバムで取り上げたのはこの一作のみ。
もちろんの如くカバー曲でイタリア語で「なるようになる」という意味。となりの山田くんに関しては一回しか見たことがないので記憶が曖昧だが、確かに色々この映画で歌われた曲の中でとりわけこの曲が印象に残ったのは印象的なシーンもあると思うが、「ケセラセラ」と全員が合唱するシーンが圧巻だったのもあるだろう。
独特な画風でセル画を用いていない作品として当初はちょっと・・・と思ったがもう一回ぐらいは見たいなと思っている作品の一つだ。
(B+)
02.ひとりぼっちはやめた/矢野顕子
映画「ホーホケキョとなりの山田くん」の主題歌として起用された。矢野顕子は「YMO」のサポートメンバーとしても有名で、主な代表曲は「ごはんができたよ」や「ひとつだけ」など。とりわけシングルヒットはないが、知っている人が多いのはやはりこの独特な歌声と家庭的で温かい作風を持った曲にあると思う。
その中でこの主題歌は本当に矢野顕子の作風を象徴している曲だと考える。
歌詞にある「だれも気づかないこの気持ちあなたにだけにはわかってほしい」 とある。肝はこの「あなたにだけ」であり、決してこの主人公は誰とでも仲良くなりたいとは思っていない。けど、この今この気持ちだけは君には分けてひとりぼっちを止めようとして、楽しい気持ちを分けようとしている主人公がとても印象的に映る。
「幸せのお裾分け」。これが矢野顕子の作風の象徴としているところかなぁと思う。だからこそ色々な曲にご飯の曲が出てくるんだと思う。
そんな温かい名曲だ。
(S)
03.いつも何度でも/木村弓
映画「千と千尋の神隠し」の主題歌。本来はこの曲は「えんとつかきのリン」を制作していた宮崎駿がこの企画自体を頓挫したときに、この曲に絶大なインスピレーションを与えられて制作された。
木村弓さんの歌声とメロディーは聴いてて不思議なそして心地よい気持ちにさせ、そして作詞の覚和歌子さんの「死を暖かく迎える」大切さは本当に不思議にさせる。
生きていく不思議 死んでいく不思議
花も街も風も みんな同じ
かなしみの数を 言い尽くすより
同じくちびるで そっと歌おう
本当にこの歌詞は素敵だ。人生というものはこういう歌詞に秘められているものかもしれない。いつも何度でも夢を描いて、死ぬまで希望でありたい。そう思える本当に名曲にふさわしい名曲だ。
(S+)
04.風になる/つじあやの
映画「猫の恩返し」の主題歌。シングルバージョンでなくC/Wのアコースティックバージョンが採用されている。
今までにジブリになかった疾走感あふれるポップソングは後にも先にも多分「ルージュの伝言」ぐらいだっただろう。
やはりサビの陽のあたる坂道を自転車で駆け上る件はやはり最高でつじあやのがもつ圧倒的キャッチーさが窺える。
けれど歌詞は別れた君を思った失恋の歌であるが、曲調もろとも君と一緒にいた日々を大切にしながらもこれからの日々を生きていこうとする明るい主人公がとても印象的だ。
つじあやのの曲はこれ以外にも様々いい曲はあるが、やはり「風になる」はとても強い一曲だ。この曲はジブリの異色作ながらも語り継がれる名曲だ。
(S+)
05.No Woman,No Cry/Tina
「猫の恩返し」と同時上映された短編映画「ギブリーズ episode2」のテーマソングとして起用。
元々Bob Marley & The Wailersが原曲であるものをR&BシンガーのTinaがカバー。その結果レゲエ要素が強かった楽曲にR&B要素が足され、日本人向けの聞きやすい洋楽になった。
楽曲の訳は最初「女じゃなければ、泣いてはいけない」と思っていたが「泣かない女はいない」という意味でもあるらしい。
ギブリーズは正直言ってあんまり思い出がないのだが唯一見た覚えがあるのはカレー屋べちゃくちゃ喋ってるシーンぐらいだ。
となりの山田くん同様、もう一度見ると何か子供では感じられなかったところが見えるかもしれない。そういう意味でもう一回見たい作品でもある。その時にこの曲を聞くと印象がまた変わるのだろうか。楽しみである。
(B)
06.世界の約束/倍賞千恵子
ハウルの動く城の主題歌。前作の「千と千尋の神隠し」同様作曲は木村弓。作詞は改めて見て大変ビックリしたが谷川俊太郎である。よく校歌を作詞したり、代表作はスイミーの翻訳や「私」の詩であったりと幅広く活動している名脚本家だ。
私が一番好きなジブリ映画はこのハウルの動く城である。特に最後のシーンのサリバン王女が2人の仲睦まじいシーンを見て「こんなくだらない戦争はもうやめにしましょう」と言うシーンは本当に大好きで、このシーンを見たいが為に映画を再生したこともある。
そんな中流れるこの曲は死別をした相手を思う歌である。歌詞の「思い出のうちにあなたはいない」から繋がる歌詞。例え、思い出に貴方がいないとしても木漏れ日やそよ風、空や花の香りといった世界の様々な情景にて貴方を感じることができると読み取れることができる。
思い出としてではなく、今生きているのならその今生きている世界の情景に貴方を感じながら生きてほしいというそれがタイトルの「世界の約束」に繋がると感じれる。
そんな感傷に浸ることができる最高のバラードソングである。
(S+)
07.テルーの唄/手嶌葵
「ゲド戦記」の劇中歌。劇中ではテルーがアカペラで歌唱をしているシーンが印象的。
手嶌葵のデビュー作でありながら彼女を一躍有名にさせた歌である。サビの一節「心を何にたとえよう」が特に印象的。
宮崎吾朗最初の作品は非常に賛否両論(どっちかといえば否定よりの意見多め)だった。そんな中、宮崎吾朗が作詞したこの曲は非常に評価が高く、ゲド戦記の映画が否定的な意見が上がると相対的にこの歌の評価が上がっていった。
それぐらいこの手嶌葵という歌手の存在は圧倒的だった。この時代特有の張り上げないパワフルではない声。ハスキーで、だけど芯が通っている声。そんな奇跡とも言える声に誰もが魅了されていった。
歌詞は孤独を表している。鷹が夕闇の空を孤独に舞う様、誰にも愛でられることなく岩陰に咲く一輪の花、たとえ隣で歩いていても寂しいと思っているあなた。
そんな様々な孤独がテルーの唄となりテルーの心情に重なり合うという曲である。この歌詞はただ孤独であるということ。それだけを歌っている。
けれども様々な孤独が重なり合うとき、世の中の孤独は私だけではないと感じた時、それは孤独を肯定し、多少なりとも救われるはずだ。
(S+)
08.時の歌/手嶌葵
「ゲド戦記」の主題歌。勘違いしている人もいるが「ゲド戦記」の主題歌は「テルーの唄」ではなくこの曲である。先述の「テルーの唄」同様、アルバムバージョンはピアノ一本のシンプルな構成となっている。
歌詞はテルーの唄の内容と似て鷹が出ており、テーマも「孤独」。しかし、テルーの唄と違い「孤独」そのものを歌っているのではなく、「孤独」の雄大さと儚さを同時に描いている。
君は孤独に飛んでいる鷹を見上げ、泣いていた。私はそこにいることしかできず、せめてもの「ただ通り過ぎていく歌」を歌う、君のために。という曲だ。
人の孤独に対し寄り添ったり、慰めるわけではない。ただ歌う。
この「テルーの唄」のアンサーソングであるこの歌は、私が今まで聞いたどんな歌よりも感動し、生涯のベストソングとして5本指に入る。
サントラや映画版のストリングスが入った壮大な構成もいいが、やはりアルバムバージョンのシンプルな演奏がより染みる。
孤独を肯定し、さらに孤独に対してどう思うかを歌った手嶌葵、作詞の宮崎吾朗は本当に感謝しかない。これぞ、本当の名曲である。
(SS+)
09.海のおかあさん/林晶子
「崖の上のポニョ」の劇中歌。宮崎駿が新しい解釈を持った海の歌をつくりたいと「海そのもの」の歌を作詞家の覚和歌子が翻案をした。
林昌子によるオペラは圧巻で、歌詞の通りの海の壮大さに負けない迫力を誇っている。当時も今もそこまで印象に残る曲ではない、悪く言うとスキップする曲なのだが、改めて歌詞の海の雄大さを歌った歌詞は素晴らしい。
今になって初めて宮崎駿がこの時、なぜ海そのものの歌を歌ったのかわかっただけでもこのレビューのような形をとって良かったと思っている。
(C+)
10.崖の上のポニョ/藤岡藤巻と大橋のぞみ
「崖の上のポニョ」の主題歌。となりのトトロのように分かりやすい子供向きの映画の印象が強いが、それがやはり今作の主題歌の影響も強い。
現在芸能活動を引退している大橋のぞみの出世作でもあるこの曲は、本当にとなりのトトロのように分かりやすくポニョについて歌った曲。
久しぶりにトトロ以上に分かりやすく歌った歌でもあるし、宮崎駿も父親と娘が一緒に歌っている曲を想像して書いたと話しておりそれもとにかく顕著な掛け合いが楽しめる。
個人的に今まで母親と一緒に歌うような曲が多かったジブリソングにおいて父親と一緒に歌うという観点は新しいと感じた。
(A)
10.The Neglected Garden/セシル・コペル
「借り暮らしのアリエッティ」の劇中歌。OPシーンにてアリエッティが庭を駆けていくシーンが印象的。
エキゾチックな楽曲は私の大好きなジャンルであり、これはその部類に位置する。不思議な世界観に覆われ、しかしそこは私たちの近くにある。そんな雰囲気で楽曲が進む。
この歌詞は淡々と荒れた庭を見せている。しかしそこにはリスや蔦や苔、ヒナギクや目に見えないはずの妖精でさえ、子供の頃には見えていた。あの思い出の庭は今は荒れている。
どれだけそこが変わっていようとも、私の中の思い出は色褪せない。そんな気持ちを持った不思議な曲だ。
(A)
11.Arrietty's song/セシル・コペル
「借り暮らしのアリエティ」の主題歌。主題歌で英詞などは使われていたが海外の歌手を起用するのは今作が初。
歌詞はアリエッティそのものを歌ったものになっている。あなたと私じゃ釣り合わない叶わない恋のような世界を描いている。
「私たちの存在に気づかれたらいなくならなければならない」その世界観と見事にマッチしたまるで映画のための歌。
曲も1番のサビでは高く、2番目のサビでは低くなるという構成にも驚かされるし何よりこのエキゾチックな感じが堪らない。この映画の曲を集めた「Kari-gurashi〜借りぐらし〜」も良いアルバムのため是非とも聴いてみてほしい。
(S)
12.夜明け~朝ごはんの歌/手嶌葵
「コクリコ坂から」の劇中歌。コクリコ坂からは劇中歌を多用しておりその一曲を収録されている。
「コクリコ坂から歌集」のアルバムから「エスケープ」の一部を「夜明け」という楽曲を使用してそこからメドレーで朝ごはんの歌が流れる。
まさに朝ごはんの家庭の様子を描いた一曲。様々なオノマトペを使い朝ごはんの支度から食事までを描いた一曲はとても暖かく描いており微笑ましい。
実際、こんな風に楽しく朝ごはんの支度は元気がなくて出来ないが、朝支度の時に聞きたい一曲である。
(A)
13.上を向いて歩こう/坂本九
「コクリコ坂から」の劇中歌。劇中で流れるラジオから原曲そのまま流れている。
今更解説不要の名曲中の名曲。一般的に海外の知名度でいったら圧倒的で「SUKIYAKI」として原曲のまま流されている。
本当に解説不要で何と言ったらいいか分からないが、少なくともこの「コクリコ坂から」で初めて聞いた時に鳥肌が立っていて、今この曲をこんなところで聴けるなんてと謎の感動に包まれていた。もちろん映画の出来も素晴らしいし、ジブリの中ではトップクラスに好きと言える映画だと言える。
(S+)
14.さよならの夏~コクリコ坂から~/手嶌葵
「コクリコ坂から」の主題歌。森山良子の「さよならの夏」のカバーソングである。
原曲は完全な歌謡曲且つフォークソングなのだが、この曲では手嶌葵のハスキーボイスを生かしたノスタルジックな世界観と映画の世界観を表していておりとにかく素敵な名曲になっている。
映画もそうだが、この映画の「コクリコ坂から歌集」は本当に素晴らしい名盤だ。このメインテーマを最初と最後に置くことでグッとアルバムに統一感が増し、温かい曲が豊富でとにかく武部聡志のアレンジが光った改心の出来作だ。
私の1番のアルバムだからこそ、この作品は絶対に聞いてほしいと心から願っている。レンタルでもサブスクでも聴けるため是非とも聞いてくれ・・・!!!!
(S)
15.ひこうき雲/荒井由実
「風立ちぬ」の主題歌。現状宮崎駿最後の監督作品になっている。また2019年頃から映画活動を再開していると言う報告がある。
説明不要の名曲。もうすぐで50年以上も経つのにこの色褪せない楽曲、まずこれだけで素晴らしいと言える作品である。
荒井由実最初のアルバムにして名盤「ひこうき雲」。その最初の作品は独特で、まだ20にも満たないと思えない。
この歌詞は死別した友人を思う歌。その死別した思いを空にかけてゆくひこうき雲に合わせて歌っている。
宮崎駿が引退を決意した主題歌が荒井由実最初の作品(厳密にいえば最初の曲ではないが)。運命のように決定されたものなのかもしれない。
(S)
16.いのちの記憶/二階堂和美
「かぐや姫の物語」の主題歌に起用。この作品が高畑勲最期の作品になった。
「かぐや姫の物語」は評判を超える傑作で、私の中でも高畑勲の傑作である。特に終盤にかけての圧倒される展開は度肝を抜かされる他なく、度肝を抜かされっぱなしのまま、そんな中こんな静かなバラードがいきなり流れるのだ。これほど「衝撃」という2文字が似合うものはない。
サビの冒頭の「今のすべては過去のすべて」という歌詞もインパクトがあり、こんなにも静かなバラードなのに、映画の衝撃が強すぎて、このバラードもただのバラードには聞こえなくなる。
歌詞の輪廻転生を描いた作風に二階堂和美の独特な歌声がこの作品を飽和する。これだけでやはりとんでもない名曲に聞こえてしまう。
今回は曲のみの判断でつけることにしたが、やはりこの作品を見るととんでもない曲だ・・・。
(A)
17.わらべ唄
「かぐや姫の物語」の挿入歌。子供たちが歌うシーンと共に主人公のかぐや姫が涙を流しているシーンが印象的なシーンである。
童謡のような歌詞だが先述の「いのちの記憶」同等輪廻転生のテーマを盛り込んでいる。歌詞の「せんぐり」は京言葉で「順繰り」。つまり歌詞の「せんぐり いのちが よみがえる」は順繰りに命は蘇っていく輪廻転生のそのものを歌っていることになっている。
高畑勲が作詞作曲したという点も非常に大きいが、この歌詞を読むやはり・・・と思うところがあるかもしれない。
(B-)
18.天女の歌
「かぐや姫の物語」の挿入歌。わらべ唄と同様の歌詞で天女が歌っているバージョンである。歌詞も変更してある。後半のパートでは琴が追加されている。
上の同様と同じ評価にはなるが、かぐや姫が歌っているバージョンは非常に穏やかで子守唄のようである。なぜこのような歌なのか。映画を見たら分かるぐらいすごいことになるからぜひ見て欲しいと思っている。高畑勲の遺作。是非とも目に焼き付けて欲しい。
(B-)
19.Fine On The Outside/プリシラ・アーン
「思い出のマーニー」の主題歌に起用。勘違いされがちなことだが、これをジブリ最後の作品だと思っている人も多いが、ジブリ最後の作品は「レッドタートル ある島の物語」である。
この曲はプリシラ・アーンがこのために楽曲を制作したものではなく、中学生の頃に抱いた孤独を描いている。
Would you cry if I died? Would you remember my face?
Sometimes I find that I'm not alright
もし死んだら私を覚えてくれる人はいるのか不安になってしまう。どんなに強がって大丈夫だと自分に言い聞かせても大丈夫じゃないとわかってしまう。
中学生の時や高校の初期の頃に描いていたあの時の虚しさが本当に共感して、ずっとこの曲を繰り返していて聞いていた。
私のような孤独を味わっていた人にとってこの曲は大切な曲になるだろう。私たちは決して内側にいるような人間ではないことは分かっている。外側にいたって元気でやっていける、居心地が良いと思っている。けれども必ずやってくる空虚な時間、あの時を共感出来たというこの一点だけでもこの曲があって本当によかった思っている。
(S+)
-まとめ-
後年のジブリは、特に「死の概念」や「孤独」の肯定を歌っている歌詞が非常に多いと感じた。
近年では高畑勲の死去や現在は再開しているらしいが宮崎駿の監督引退など、終わりを非常に意識していると感じた。
ジブリ前期ではそんなことを感じさせなかったが、後期は決まったテーマがあったのかどうかは分からない。けれども、このようなテーマが多かったからこそジブリの世界観は統一されたのかもしれない。
バラードソングは非常に多かったが圧倒的な名曲は多い。いつでもジブリやその歌たちは優しく迎えてくれるはずだ。