「感謝」を軸としたアルバム
ASKAの活動はここ十年前以上に精力的な活動を見せている。
昨年2枚のオリジナルアルバムを出し、「Too mane people」のMVを集めたディスク。
今年にはベストアルバム2枚を出し、復帰後初のコンサートも行われる。
何故ここまで精力的なのか、そこにはこのアルバムの中に含まれているテーマに秘められていると私は考える。
今回も同じように評価を(C,B,A,S)とし、場合により(+、-)を付ける場合がある。自己の評価ということで過度の参考にしない程度で見てくれると嬉しい。では、早速見ていこう。
01.FUKUOKA
ASKA復帰後の最初の曲は静かに始まった。ピアノとストリングスを使った優しいバラードナンバー。
歌詞はタイトルの通り福岡の情景を映している。ASKAの出身地が福岡であること、コンプライアンスのせいで福岡でしかレコーディングができなかったこと、そのことに感謝を述べて綴った曲。
最後歌詞カードには存在はしない「ありがとう」という言葉に彼が今まで積み上げてきた最大級の感謝の言葉が述べられている。
(A)
02.Be Free
ASKAがファンクラブ会員宛にデモ版として送ったモノを仕上げてきた今回の曲。
このアルバムの中で随一を誇るメッセージソング。
「自由になりなさい 楽になりなさい 誰かにそんな風に言ってもらいたい」という歌詞は名フレーズ。
試しにデモ版も聞いてみたがそこまで変わってはいなかった。歌詞に少し変化があったり、声にエフェクトがかかったりとそこまでである。
ASKAにしてはどこからしくない歌詞だが、この直球な歌詞は心に来るものがある。
(A+)
03.リハーサル
ダークテイスト包まれるロックサウンド。とにかく重圧のロックサウンドに圧倒され、ASKAの得意とする魂を揺さぶる声に心を動かされる。
歌詞はタイトル通りリハーサルのASKAの心情を歌った曲である。
「抱えたギターを鳴らして」の歌詞とシャウトボイスにリハーサルを本気でやるASKAの姿勢が窺える。Youtubeに公式で上がっているのでこれもぜひ聞いていただきたい。
(B+)
04.東京
今までの3曲から打って変わって陰と陽が刻みこまれた爽やかなポップナンバー。
「LOVE SONG」と「On Your Mark」をそのまま足したような抜群の名曲である。
歌詞はタイトル通り東京の情景を描いている。
サビの歌詞にある「赤いポスト少なくなってそれでも人は繋がってる」の歌詞に感動を覚える。ASKAなりに東京での様々な経験を通して感謝を東京という街に伝えている。
今作のアルバム、ASKAが作ってきた曲の中でもトップクラスの名曲である。
(S+)
05.X1
読み方は「クロスワン」。これは離婚するときに「バツイチ」と読むのではなく、「クロスワン」と言ってみようよというASKAらしい提案をする歌詞なのだがこのアルバム発売後ASKAは妻と離婚していることを明かした。これは妻に今までの苦労した分をASKAらしく感謝を述べて作った曲なのではないかと思う。
「未来の不安はとても大きいけれど みんなが見ている君を見ている」という歌詞が好き。
優しさあふれるミディアムナンバー。ちょっとした中毒性溢れる曲である。
(A+)
06.それでいいんだ今は
爽やかなメロディーと裏腹に、ASKA自身が振りまいたが故に起きてしまったコンプライアンスの壁というものを抽象的な歌詞に仕立てあげた歌。
ASKAののびやかな歌声はさぞ聞く人も幸せを誘うが歌詞がそれを想像させてしまう。「ギターが割れたって」「行けば苦しみがあって」とどうしても想像をしてしまう。
そういう歌詞だからこそ、ASKAらしくもう一回、もう一回と頑張る過程を描いたその曲はまだ、今は名曲とまでいかないが、ある時に急に名曲に化ける一曲になるだろう。
(B)
07.Too many people
語りかけるような歌声が特徴的な一曲。今作のタイトルチューン。
前述の曲より間違いなく、事件のことを言っている。事件後、たくさんの人々がASKAのもとを離れていき、逃げて行った。そういう人たちのことを歌ったのではなく、まだ帰りを待っているたくさんの人たちに向けて作った歌。
最初聞いたときはかなり攻めていて、毒々しいと思ったが。次の曲でこの曲が彼なりの感謝の表し方だったとわかった時に少し安心した。
この曲は非常に難しい曲であり、受け入れ難いという人がいるのも分かるが、今作のアルバムの意図を理解すればこの曲も「そういうもの」という形に収まるのだと思う。
(A-)
08.と、いう話さ
イントロから心を動かされるギターサウンドが特徴的な一曲。とにかくロックのアンサンブルがたまらなく、ASKAの歌声に妖艶さまで感じてしまう。
今回のアルバムは事件後ということで非常に感謝などを述べた心理的状況を踏まえた描写がかなり多い。その中でこの曲は、唯一と言ってもいいように芸術的な描写に感謝を多く含ませている。
例えば、「獲せたフレーズでも優しい眼差しをしてくれる 心にレントゲンを透かしてくれる」、所謂どんな歌詞のフレーズでも君らは優しく見ていてくれて、歌詞の内容を汲み取ってくれているね、と解釈できる。
前述の「Too many people」でも記載した通りこのアルバムは、様々な紆余曲折を乗り越えてこのアルバムが完成した。そのアルバム完成に協力してくれた多くの人々に様々な伝え方で感謝を述べている。この曲で今回のアルバムの意図が伝わったような気がした。
(S)
09.元気か自分
タイトル通り元気なポップナンバーが印象的な曲。色々な景色を織り交ぜながら自分を応援するスタイルの歌詞となっている。
やはりここで注目すべきはラストである。
歌詞カードには載っていないが最後ASKAが何かモヤモヤしながら歌っているのが分かる。
解釈しながら聞き取ると「負けるな生きよう 頑張れ生きよう」となるが、純粋に聞き取ると「負けるなキヨ 頑張れキヨ」とも聞き取れる。最初聞いたときはそうとしか思えなかった。自分と同じようになってしまった清原選手を見て自分を応援し、最後にキッカケを与えてくれた清原選手に対し言ったセリフではないかと思われる。
これをライブで歌うとき何と言うかが楽しみである。
(A+)
10.通り雨
「X1」のようなミディアムテンポのバラードが特徴的な一曲。今回のアルバムでは珍しくラブソングテイストになっている。
歌詞は通り雨のせいで恋人との待ち合わせの時間に遅れてしまった主人公を描いている。歌詞の「笑えるように話するから どうか愚痴を聞いて」という歌詞がとても印象的。
心地よく素敵な描写。MVも楽しげであり、今作の癒しソングではあるが今作のアルバムにおいては少し違和感、つまり浮き出てしまっている印象がある。
(A-)
11.信じることが楽さ
ASKAの心の在り方を描いた曲。とても感傷的なメロディーとなっている。
これは今作のアルバムと同時に出した著書「700番」の週刊文春の章に書かれてあった詩「信じることが楽さ」に沿って書いてある。
コンプライアンスによって何度も裏切られてしまったASKAの静かな訴えが伝わってくる。「疑うことは寂しいことなんだ 人は信じることが楽さ」と歌い終わったとき、初めて聞いた私は涙したことを覚えている。自分の中に響いたものがあったのだろう。
自己の評価では今作の中でかなり好きな曲の部類に入る。
(S+)
12.未来の勲章
今作のアルバムの中でポップでキャッチーな曲が印象的。
サビの「クールでシュールでキュート」という普段は合わないような言葉の羅列が未来の勲章という形にすっぽりと納まる。これが凄い。
またこの曲が事件後、初めてファンに向けて歌った曲。MVの撮影とはいえ、ファンに対して楽しんでもらって帰ってほしいというASKAなりの思いが生放送を視聴し思った。
今作の中でとびきり聴きやすいナンバーとなっているため、この曲が来ると何か安心するし、そして終わりが来ることもイメージできる。
(S)
13.しゃぼん
今作の最後を飾る曲。イントロからすでに壮大になるだろうというものが伝わってくる。
ASKAは療養中全ての自由を奪われ、鍵のかけられた部屋に入れられ、本すら読むことができなかった。その時に「僕の上に天使はいるかい」などの歌詞が浮かび上がったらしい。
それを聞き歌詞を読むとどんな思いで歌っていたのかが分かる。
「それでも ああそれでも」という魂を揺さぶられる圧巻の声。「虹色に回る 色の定まらないしゃぼん」や「弾けて消える 音もなく消える」などの私自身では想像もつかないような経験を味わうような歌詞。
全ての歌詞に無駄がない。どんどんと壮大になるメロディー。まさにこのアルバムがASKAのアルバムの中で最高傑作とも言える理由がわかる一曲である。
これを公式で公開するということはまさに感服である。
(A+)
【総評】
待ちに待ったというのもあり、事件後ということで評価は多分相当甘い。
と言いたいが、それを取っ払っても一曲一曲彼なりの感謝の表し方が伝わってくる。
「On Your Mark」が私にとっての最高傑作ということに変わりはないが、このアルバムはまさに名盤。
どちらかというと私は前作の「SCRAMBLE」が好きだが、こちらも負け自劣らずだ。とにかく素晴らしかった。
復帰後の初コンサート改め、今後も活動は活発的になることだが是非問わず注目していきたい。
(S+)
【リンク】
「Too many people Music Video + いろいろ」DVD