2018年半分経って尚、揺らがない
今年2018年はまだ半年経とうとしていないのに、もうすでに様々なアーティストたちが様々な歴史を作っていった。
それが良いものであれ、悪いものであれ、その歴史を肌で感じているのだ。
そんな中2018年。いや、ここ近年で飛び抜けてぶち抜いてきたアルバム、アーティストに出会った。
「やなぎなぎ」さんという人だ。(以下敬称略)
彼女の事は結構前から知っていたと自負している。
supercell時代のnagi名義で活躍していたことや、ニコニコ動画で伝説となっているガゼル名義で活躍していたことは目や耳に入っていたが、やなぎなぎで活躍している曲は自分の運が悪かったのか、出会っていなかった。
そんな中、2017年に放映されていた「キノの旅」を見た。
その時に、OPやED曲の「here and there」や「砂糖玉の月」に何かその歌詞の魅力、メロディーの抽象さに惹きつけられるようになっていった。
そして、すぐに3枚のアルバムを一気に聴き、彼女の魅力にどハマりし、来る1月17日のNewアルバムを待ち、そして聞いた。
今回のブログはその感想である。今回ブログで初の試みとして評価的なものをつけているが、あくまでも私の価値観ということで、ほんの少しの参考程度に考えてもらえればいい。
基本「S」から「C」までの4段階評価だが、場合により「+」や「-」をつける場合もある。それについてはご了承いただきたい。
では今作のアルバム「ナッテ」の感想を綴ろう。
01.snowglobe
まずこのアルバムのタイトル「ナッテ」。このなっては「綯って」という複数の糸をより合わせて一つにするという意味があり、今作の「snowglobe」はその「ナッテ」の世界観の説明として、使われている一種のイントロ的存在となっている。
この曲の一番の見所はまさしくこのスノーグローブのような誰にも触れられないが、誰からでも見ることができる宝物のような世界観。つまり今作の「ナッテ」は、やなぎなぎ自身における宝物をこのアルバムで綯うということである。
音楽としては静かに淡々と進めていくが、サビに入ると急にキャッチーになりかなり印象的なメロディーを奏でていく。
イントロ的な存在としてはこの上ない役割を果たしていると思う。
(A)
02.時間は窓の向こう側
実質今作のOP曲。何とも不思議な曲調で始まっていく、TVアニメ「時間の支配者」のEDテーマとして起用された先行シングル曲。
歌詞は鳩時計をモチーフにしている。秒針の音で目覚めた主人公が何を思っているのかを淡々と描いていく。
また、2つの針を主人公と君に例えているのも印象的。
それに合わせて曲調も怪しくなりながらも壮大な物になる。
正直、どう説明すればいいかは分からない曲だがどこか惹きつけられる。そんな曲調に次の曲でさらにヒートアップしていく。
(A)
03.over and over
これぞ「THE・アニソン」と言うべき爽やかなメロディーと言える曲。TVアニメ「Just Because!」のOPテーマとして起用された先行シングル曲。
今作の「Just Because!」はやなぎなぎが全面的に音楽をプロデュースをしており、今作のOPは北川勝利との共作で作られた。
アニメのことも考えてか、青春を感じられるポップスソングとなっているが、歌詞がかなり切ない。開幕「記憶の君に告ぐさよなら」となんともノスタルジック。
「over and over(何度も)」というようにこのセリフを何回も繰り返しているのも特徴的。
やなぎなぎと北川勝利の作詞と作曲が見事にハマった名曲だ。
(A+)
04.here and there
先行シングル曲。TVアニメ「キノの旅-the Beautiful World-Animated Series」のOPテーマとして起用された。
OP映像からも分かるが、音楽はかなりエヴァーグリーン。今まで聞いた音楽の中でも飛び抜けた爽快感や、開放感を感じる。
テーマは「旅」。前作のアルバム「Follow My Tracks」を踏襲したかのような世界観がたまらなく良く、特にサビに入る「果てまで」という声に本当に「ここ」から「果て」まで飛んで行けるかのような声に本当に驚かされる。そこにタイトルの「here and there」が絡んでいると思うとすごくニヤけてしまう。彼女の声の魅力を完璧に表現した傑作だ。
また、この作品が私が実際にやなぎなぎに興味を持った作品である。なので今作はとても好きな部類に入る作品の一つだ。
彼女自身もこの曲は今作のメインディッシュみたいなものと言っている。その後の3曲はかなり温かみのある曲なので確かにそうだと思うところがある。
(S+)
05.スーパーヒーロー
詞曲編ともにやなぎなぎ自身が行った打ち込み主体のポップスソング。
彼女の宝物の一つとして今でも大好きな「ゲーム」をもとにしている。
歌詞は子供のころゲームのヒーローに憧れていた主人公、だけど今はそのゲームカセットは埃にまみれていて二度とあの時のヒーローは戻ってこないという歌詞である。歌詞にある「僕の困難は君のイージーロード」や「埃にまみれたヒーロー 君だけが永遠だ」など切ない歌詞や3分ちょっとで終わる曲などでかなり中毒性が高い。
この曲を聞いて分かったのが、今作は全体的に温かみのある作品なのだがその全てが切なさで包まれている。しかしそれでも温かいと感じられるのは、主人公が内向的になるのではなく内から外に向かって進んでいるからである。
彼女自身もそれを語っており、今作のアルバムの意図がこの曲で伝わってきた。
(A+)
06.あなたはサキュレント
この曲は前のブログで紹介したことがある。
karonsenpai0912.hatenablog.com
しかし、今回改めて紹介したいと思う。
打って変わって可愛らしい曲調がとても印象的なポップナンバー。
サキュレントとは多肉植物の事であり簡単に言えばサボテンのような葉っぱの中に水を蓄えることが出来る種の事である。
やなぎなぎは植物は人の行動や仕草で成長が変わると聞いたことがあり、それならばサキュレントに貯まっていく水も人の言動などで変わるのでは?という思いで作られた作品。
ボッサ調で曲だけ聞いてもかなりオシャレなポップスソングでとても心地よい。また、やなぎなぎが昔から好きだった音楽、エレクトロな音楽を斉藤真也が手掛けている為かなりハイクォリティ。
歌詞は失恋したであろう主人公がサキュレントに喋りかけている歌。「分かってほしいなんて思わない なぐさめてほしいわけでもない ただ聞いて聞いて聞いてくれたら 頬が乾いていくまで」という歌詞がとても印象的。
中毒性が高く中盤のアルバムの流れをここぞとばかりに持っていく名曲だ。
(S+)
07.海を込めて
ほんのりとR&B調を感じることができるミディアムバラード。歌詞を見ればわかるが貝目線の歌になっている。
実際にやったことはほんの数回しかないが、貝を耳にあてると海の潮の満ち引きの音が聞こえたりと言うものを貝目線で歌った少し珍しい曲。
この曲も北川勝利が手掛けており、前述でも語ったが、ゆったりとした曲調なのに対しR&B調を取り入れてるため非常に心地よいリズムを体感できる。
「潮騒が呼んでもひとりでは戻れない だから一緒に待とうよ」という歌詞が印象的。
名曲とまではいかないが、しっかりとアルバムを繋げる大切な曲の一つだ。
(B+)
08.瞑目の彼方
TVアニメ「ベルセルク」のEDテーマとして起用された先行シングル曲。
読み方は瞑目の彼方(めいもくのかなた)。安らかに目を閉じる、所謂「死」を表している。
作曲は鷺巣詩郎。笑っていいとも!やエヴァンゲリオンなどの作曲を手掛けた人の楽曲は今作もそうだが全体的にダークな印象が漂う。
サビも非常に独特で、追っかけるように歌う、輪唱のような歌い方をしている。
歌詞も独特でかなりアニメに沿った勇者の鎮魂歌のような歌詞となっている。
途中歌詞に出てくるeinherjar(エインヘリヤル)も意味として北欧神話によれば戦死した勇者の魂となっているため、かなり重めのテーマとなっている。
とっつきにくいと言えば、確かにそうだが、サビの圧巻のファルセットはやはりどこかに持ってかれる。
ある時にふとききたくなる一曲だ。
(A-)
09.砂糖玉の月
先行シングル曲「here and there/砂糖玉の月」の両A面曲の一つ。TVアニメ「キノの旅-the Beautiful World-Animated Series」のEDテーマとして起用された。
テーマは「here and there」の同じテーマとして「旅」を元にしているが、ここでは旅には必ずつきものとなっている出会いと別れをテーマに進めていく。
印象的な美メロもそうだが、注目してほしいのはサビの冒頭「届かないから美しい まるで砂糖玉の月」という歌詞である。
みなさんが想像する美しいものというのは、例えばダイヤモンド。博物館やTVなどでしか我々一般人は目にすることができず、つけている人などほんの一握りだ。
では、手にしたらどうだろう?
確かにダイヤモンドは美しいものだが、そこには美しいという感情はほぼなく手に入れたという実感しかそこには残らない。
美しさを体現する言葉として彼女は「届かないから美しい」という言葉を使ったのである。
また、1トラック目の「snowglobe」をもう一回聞いてほしい。前述したとおり、彼女は「スノードームは誰からもみることができるが触れることは出来ない。そういう世界観を作りたかった」と言っている。
この砂糖玉の月というのも、遠くで見ればまるで月のように輝いて見える砂糖玉も近づけば土塊のように見えてしまう。だけど、それでも尚、土塊でもいいから触れたい、触りたい。という彼女が思うスノードームの本音がこの曲によって如実に表れているのである。
最初聞いたときもこの曲は名曲だと疑わなかったが、このアルバムを聞いてさらに自分の好き度が増した。サビの盛り上がり、Cメロの怒涛の勢い。
やなぎなぎのキャリアを通しても屈指の完成度を誇る、最高傑作だ。
(SS+)
10.relaxin'soup
まず、この曲を解説する前に今回フィーチャリングに起用された歌手DJみそしるとMCごはんについて少しだけ説明しよう。
2人いるような名前だが、1人で歌っており基本彼女はラッパーである。しかし彼女の最大の特徴は名前からも分かる通り、「飯」をテーマにしているのである。TV番組ではティラミスの作り方をラップにしてしかもそれを実演しながらやるという奇怪なパフォーマンスで度肝を抜かれた。
しかし、そんな中にも歌詞の一文でいきなり温かいセリフを言ったりなど、「飯」に対しての彼女なりの思いがちゃんと伝わってくるのが特徴的。
さて、そんなこともあって今回のタイトルの題材は「ラーメン」。やなぎなぎは「嫌なことがあったりちょっと整理がつかない気持ちになるとラーメンを作って忘れることがある」という感情をそのままラップと歌にした曲。
非常にほんわかした何ともゆるい感じだがそれがたまらない。「砂糖玉の月」で高ぶった気持ちを一気に落ち着かせるのにこれほど丁度良い曲は無い。
歌詞の「おなかいっぱい しあわせいっぱい」という歌詞がとても印象に残った。
ちなみに、ラスト何かガヤガヤしている声が聞こえるが、これはお二人の雑談をmixしたものをラストにぶち込んだ何ともぶったまげた発想だがそれにより、さらに温かみが増した気がする。
(A+)
11.目覚めの岸辺
この曲は、今までの内省的な雰囲気を保ちつつも、「ナッテ」の世界観に完璧に合した曲である。まずここで紹介する歌詞は3つある。
1つ目は「ガラスの小瓶で海へ送り出そう」という歌詞。これは星砂を紙に包み小瓶に詰めて送り出す歌詞なのだが、ここではどうか誰かに届いてほしいという希望と、彼女の今回のコンセプトである「スノードーム」をガラスの小瓶に例えているのである。
2つ目は「呼吸さえ覚束ないまま 化石になって砂の底」という歌詞。聞いてもかなり内省的な歌詞である。これはその前にある歌詞にあるが、何とか岸辺には着いたがもう傷だらけになっており、誰にも見つけられずじまいとなってしまうというものである。これは最初のアルバム「エウアル」においての全体的な内省的な雰囲気を醸し出していたあの頃とかなりそっくりである。
そして3つ目が「識る(しる)術もない なんてことない土塊になれたらいい」という歌詞である。前述でも紹介した「砂糖玉の月」に出てきた土塊である。
この砂糖玉も星砂も、もちろん遠くから見たり何かに包まれたりしていると綺麗に見える。しかし、それでもただの砂糖だし砂である。それでもそんな風になりたいと語っている。
総合すると、この歌詞ではラストにあることですべて片づけられる
「打ち上げられて 消えてゆくため(中略)ガラスの小瓶で空の海に送り出そう」である。
正直かなり内省的すぎる歌詞だが、作曲の「rionos」により、この砂の底に沈んでいったガラスの小瓶がまるでサルベージされたかのような気持ちになる。
今作のテーマの一つにもある「内向的な主人公から外側へちゃんと進んでいる」というのをちゃんと表している不思議な一曲だ。
(A+)
12.夜明けの光をあつめながら
今作の中でかなりのポップでキャッチーな作品となっている。北川勝利が今まで提供した曲の中でも飛びぬけて明るい曲。
歌詞はかなり内省的になっている主人公が夜明けの光を数えながらまだここにいたいという気持ちに対して、そっと勇気を押し出してくれる曲となっている。
サビの歌詞がそのままタイトルとなっているのだが、もの凄くキャッチー。一度聞いてしまえば、誰もが口ずさんでしまうだろう。
本作を飾る大団円的なED曲。
北川勝利の楽曲は正直どれも似たり寄ったりのようなバンドサウンドが多かった印象だが、この曲がひときわ輝いて見えた。「春擬き」に続き北川勝利の楽曲の中でトップクラスに好きな曲である。
(S)
ちなみに・・・
また、北川勝利がオールプロデュースしたTVアニメ「スロウスタート」のキャラクターソングアルバム「Step by Step」もかなりの名盤だった。是非ともそちらも聞いてほしい。
13.natte
本作の最後を飾るピアノ主体のバラードナンバー。ここでやなぎなぎさがこのアルバムのテーマに掲げていた様々な宝物を「綯う」ことで出来ているアルバムであるが、この曲は余韻みたいなものであると彼女自身も言っている。
この曲は様々なあなたの「natte」を感じてほしいという思いを歌にした。
「触れないけど見えているよ」という歌詞がスノーグローブを意味しているのが本当に憎くてたまらない。
このような温かさのあるアルバムで最後にしっかりと余韻を残して終わるこのアルバムは間違いなく名盤だという証がここに「なって」いる。
(B+)
【総評】
如何だっただろうか。やなぎなぎの傑作がここに「なって」いる確かなアルバムである。みなさんも様々な宝物。例えば、あなた自身が感じている名盤などを「綯う」。
好きな音を「鳴る」。様々な「ナッテ」をこのアルバムを聴いて感じてもらいたい。
今回のアルバムは今までのやなぎなぎの総決算と言っても過言ではない。
ソロデビュー時のエレクトロニカルな音楽や、バンドサウンド。
不思議な世界観へと連れていく歌詞などバラエティ豊か。しかしそれでも尚このアルバムのテーマとして全く崩れることなく、完ぺきなアルバムとしてなっている。
今もなお、様々なアルバムが出ており良いアルバムが出ているが、これを上回る作品がまだ出ていない。
今年のNo.1は決定したといっても過言ではないだろう。
(SS+)